PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Chapter 6 Family and Friends 12/16

セラピー  

 犯罪被害に遭うことによるストレスや緊張と、それに続く幾多の困難のもとで、結婚生活、恋愛関係、家族の絆や友情が揺さぶられたり、あるいは完全に壊れてしまうのはきわめてよくあることである。事件の前には事実上トラブルと無縁であった関係でさえ、PTSDや手術、入院生活、警察への応対、加害者の裁判などの、襲撃に関連して生じる問題に揺るがされることによって、弱まったり崩壊してしまうことがある。犯罪被害者やかれの内部サークルの人々が直面する、これらの大きなストレスを伴う状況に対処していくのは容易なことではない。

 しかし、こうした試練によって関係が維持されたり、あるいは強まることもあり得る。配偶者、家族、被害者の友人のなかには、自分だけでどうにかして問題に対処し、それを解決までもっていくことのできる人もいる。ほかの多くの人にとっては専門家の介在が有益であり、場合によっては不可欠である。

 先日私は、犯罪被害者センターの常任理事を務めるナンシー・クレスと話す機会を持った。犯罪被害者センターは、暴力的犯罪の被害者とその家族に、多岐にわたる専門的サービスを提供する非営利組織である。クレスは可能であればいつでも、配偶者、血縁者など、被害者の人生において鍵となる役割を担っている人物をセラピーに参加させようと試みている。

 クレス氏は次のように述べた――「人は一般的に、安全ではない世界で安全さを感じるために、目隠しをした状態で生活しているようなところがあります。しかし、自分の愛する誰かが襲われたとき、突如として人は、非常に怖ろしい現実に直面することになります。その結果として自分自身怯える人もいますし、合理的ではない、つまりは無作為に行われた暴力行為に合理的な説明をつけようと四苦八苦する人もいます」。

 「人はこういうことを自分に言い聞かせることがままあります――もしも被害者が用心をしていれば、こんなことは起きなかっただろう、したがって、もし自分が用心していれば、この手のことは自分の身には起こらないだろう。この種のロジックに基づいて、人は被害者にこんなことを尋ねてしまうことがあります――『どうしてあなたはドアに鍵をかけていなかったの?』『どうしてそんなに夜遅くに外出したの?』。『その窓をちゃんと閉めていればこんなことは起こらなかったんだよ』――そんな言葉を大声で口にしてしまうのはよくあることです」

 「そうした無神経な問いかけや意見は、被害者を非常に傷つけます。それは憤りや自分を責める気持ち、戸惑いを被害者の側に引き起こしてしまいます。ですから、私が被害者の人生にとって重要な人物と話をするときは、世界が孕んでいる潜在的な危険を、あまり極端な恐れを抱かないていどに認識し、受け入れることができるように彼らを啓蒙し、刺激し、注意を促すように努めています。そして、起こったことに関して被害者を、あるいは自分自身をも責めることは不必要なことだし、関係性を破壊することにつながるのだという点を分かってもらうように手助けをしています」

 「セラピーの環境は、被害者と、かれの愛する人々とのあいだに生まれてしまった多くの誤解を一掃することに役立つでしょう。被害者の手助けをしようとしている人々にとって、被害者のふるまいやその怒りに満ちた罵倒の言葉は、対処が困難で大きな戸惑いをもたらします。もしも彼らが配慮と知識のある外部の人間から説明を受けていれば、被害者の憤りや怒りを理解し、それを一過性のものとしてみることが、たいていの場合より容易になります」

 「被害者に近しい人間は心から手助けをしたいと願っているでしょうが、彼らはしばしば自身も危機的な状況にあります。事件は恐れや苦痛、怒りの感情を呼び起こします。彼らが自分を悩ませている考えを振り払うのは難しく、助けを求めて彼らに向かって泣き叫んでいる被害者のために、ただその場にいることすら困難になります」

 「たとえば、多くの被害者は自分の襲撃体験を何度も何度も繰り返し語ることによってガス抜きをする必要を抱えています。いっぽう配偶者や友人や両親は、被害者が同じ話を何度も蒸し返して、四六時中くよくよこだわり続けたりはしないほうがいいと心から信じている。家族の人たちはこんなことを言います、『忘れなさい。私たちにとってそれは過ぎたこと。もうその話はしないで』。これはもちろん非現実的です。もし被害者がそのアドバイスを受け入れてしまうと、話したかったことを自分の内にどんどん溜めこんでいって、いっそう具合が悪くなります。話をちゃんと聞いてくれなかったことで、被害者はかれの愛する人々に憤りを感じるでしょう。そして最終的には、被害者自身と、関係性の両方が損なわれてしまうのです」

 「真実はこういうことです――被害者の苦痛に満ちた試練の詳細を聞かされることは、話を聞く側の人を傷つけるのです。苦しみや痛みの話を聞くのはつらいことです。それは聞くほうの側に罪悪感や責任感を覚えさせるでしょう。こうした感情のゆえに、彼らは被害者が話を何度も繰り返す機会を否定するのです。セラピストはガス抜きの意義を彼らに教えることができます。このプロセスが積極的な意味をもつものであると知ることで、内部サークルのメンバーはもっと話を聞くことができるようになる、または少なくとも、それが被害者にとって有益なものであることを認識することができます」

 「セラピーで、被害者の内部サークルのメンバーは二つのことを学びます。どのようにして被害者を助けるか。そしてどのようにして自分自身を助けるか。もしも彼らが事件の結果生じた自分自身の苦痛や苦悩を表現し、それに対処するための方法を学んだら、彼らは間違いなく、被害者を援助し、被害者に共感することもより適切にできるようになるでしょう」

 「被害者家族のなかには、被害者のセラピストと対面で、あるいは電話でほんの一、二回の相談の機会をもっただけで、慰めと方向づけを得る人もいます。切実な問いに対する二、三の直接的な解答がどんなに役に立つかは目を見張るものがあります。自分とオープンに話してくれるセラピストを持つことは、被害者の治癒へ向けた過程に自らが関わっているという感覚を、家族のメンバーにより強く抱かせることにもつながるでしょう」

 「事件が被害者と関わりの深い人々に及ぼした影響に応じて、個々の人物は単独でセラピーを受けるか、もしくは家族のほかの人たちや内部サークルのメンバーとともにグループでセラピーを受けるか、選ぶことができます。さまざまなやり方が考えられます」

 「専門家のカウンセリングを求めることで良い点のひとつは、それによって内部サークルのメンバーが感じている苦痛や恐れに説明がつけられ、正当化されるということです。彼らがこんなことを考えるのはもっともなことです――『なぜ私は怖がり、怒り、苦しみ、困惑しているのか?それは私に起こったことではないのに!私がこんなにボロボロになることはないではないか』。被害者に近しい人々が自分自身の心の痛みを相当程度に体験するのがどれだけ普通なことかを知るのは、たいへん大きな助けになるはずです」

 「友人や家族のメンバーは被害者に向かって、強く、ストイックな後ろ盾の役を演じていることがままあります。しかし心の裡では、かれ自身も弱さや恐ろしさを感じているものです。かれがセラピストの支援を求めることで、かれは自分自身の感情をガス抜きすることのできる場所を得るわけです。そこではストイックな役割を演じる必要はありません。そこでかれは、慰めや支援やかれ自身への共感を得ることができます。そこでの手助けや気遣いがかれに滋養を与え、こんどはかれのほうが活力に充たされて、憤りや過剰な負担を感じることなく被害者の要求に応えてよりよい手助けができるようになるでしょう」

 「被害者の内部サークルのメンバーが自分自身もセラピーを受けることを選択するかどうかによらず、少なくとも、被害者の治療を行っているセラピストとはオープンなやり取りをすることが大切です。配偶者や両親や友人は、自分自身の問題にうまく対処しているかもしれませんが、かれは少なくともセラピストから形式ばらない助言を受けられるようになっているべきです。たとえば裁判の前には、内部サークルのメンバーが被害者のセラピストに、公判がどのように被害者および/または彼ら自身に影響を及ぼすか、法廷ではどのようにふるまうべきかといったことを尋ねておくのが望ましいでしょう」

 「セラピストは、助言する立場では非常によいはたらきをすることができます。ですから家族のメンバーは、カウンセラーのもとにセラピーではなく助言を受けに行くことを考えるほうがより楽でしょう。セラピストが、被害者の内部サークルのメンバーにとって生きていくことがより容易で耐え得るものになるよう影響を及ぼすことができることを示す、多くの明快な事実があります」

 「セラピストは、内部サークルのメンバーが極端に走ることを避けるよう手助けをすることもできます。被害者の世話をしている人は、実際あまりにもやり過ぎることがままあるのです。被害者が自分自身を制御していく感覚を取り戻していくことがいかに大切かを、セラピストは彼らに教えることができます。ケアや援助は必要ですが、被害者がある時点で無力感を克服していくことも必要なのです」

 「セラピストは、手助けをすることと、被害者が再び自立心を回復するよう促すこととをうまく両立させるよう、内部サークルのメンバーを導くことができます。あまり押しつけがましくならない程度に手助けをするにはどうすればよいかについての助言をセラピストは与えることができます。内部サークルのメンバーにとってセラピーは、被害者の援助をしつつ、自分自身が必要とするところにもできるかぎり応えていくにはどうすればよいかを学ぶ手段としてしばしば有用です」

 クレス氏は指摘する――「犯罪被害の後では多くの結婚生活が破綻します、被害者が夫か妻かに関わりなく。いかなるカップルにとっても、事件が彼らのおのおのに不可避的に呼び起こす困惑、怒り、恐怖、苦痛に対処することはたいへん難しいことなのです」。

 「多くの場合、夫と妻が(または、結婚はしていないが非常に深い恋愛関係にある場合はパートナーが)、ときには一緒に、ときには個人でセラピーを受けるのが理想的です。これにより、客観的な第三者の手引きのもとで、彼らは自分の感情に素直になることを学び、パートナーの前でそれらを表現できるようになるのです。そして彼らがセラピストと個々に会っているときには、心のもっとも奥底の思いを、自分の言葉や感情、行動がパートナーを傷つけたりはしまいかと気にすることなく打ち明けられる時間、あるいはプライバシーを得るわけです。被害者のパートナーはしばしば、自分自身の問題に注意を向けてほしいという非常に大きな、しかし通常満たされていない要求を抱え込んでいます。セラピストと話すことは、あらゆる種類の疑念や懸念、ときにはヒステリーさえをも解き放つための、すぐれた手段です」

 「とりたてて問題もなく落ち着いた関係にあったカップルでも、犯罪被害による突然で強烈なトラウマに対処していくのは困難なことです。ですが彼らがもともと深刻な問題を抱えていた場合は、犯罪に巻き込まれたことが最後の決定的な一撃になりかねません。このような状況にあるカップルは、事件後すぐ自分たちの問題に取り組み、対応していかなければなりません」

 「たとえば、妻が夜間に大学の講義を受けに行くことに夫がいつも反対していて、事件が妻の講義からの帰宅途中に起こった場合、もともとの不満が事件後の問題を複雑にし、増大させてしまうでしょう」

 「事件の前からパートナー間の関係に問題があったり、大きな不和や不一致を抱えていた人は、事件後に完全な破局へと到る危険がもっとも高くなります。もしも犯罪被害者のカウンセリングをしていてその種の状況が存在していることを私が感じとった場合は、被害者のパートナーにも会って、二人が揃って問題に取り組み、望むらくはその解決にまで到るよう手助けをすることに特別な重点を置きます」

 「被害者の配偶者やパートナーが対処しなくてはいけない困難のひとつは、自分の愛する人の性格やふるまいの変化です。しばしば配偶者の側は、被害者にかれが事件前そうだったのと正確に同じ状態にまで戻ってくれることを求める傾向があります。セラピーでは、この望みが非現実的であることを配偶者に教えます。被害者がまったく別の人間に一生なってしまうことはもちろんありませんが、心を打ち砕くかれの体験はおのずとある程度の変化を生じさせます。もしも関係を保っていきたいのであれば、被害者のパートナーはこの現実と向き合わなくてはなりません」

 「被害者のパートナーはよく私にこう尋ねます、『これはいつ終わるんでしょうか』と。彼らは実際に日付を、かれの愛する人とかれ自身の生活が正常に戻っていく具体的な時間の枠組みを、知りたがっているのです。この時点で彼らは真実を知らされなくてはいけません――被害者の、様変わりしたその人らしからぬ行動は時間とともに目立たなくはなっていくでしょうが、暴力的な攻撃を受けた人が、事件前とまったく同じ状態に戻ることは決してないでしょう。被害者は多くの場合、事件前に近いぐらいの健常な生活スタイル、配偶者との接し方を取り戻すことができますが、それでも二人がともに、長期にわたってもろもろの点を修正し続けていくことは避けられないのです」

 「被害者の配偶者にとって、こうしたことを知るのはどれも容易なことではないでしょう。ですがこのつらい事実も、被害者本人とは別の人物――専門家から伝えられれば、通常、より受け入れやすくなります。被害者とセラピストはたいてい同じことを言うようになります――『事件は変化をもたらした。それを以前と同じに戻す方法はない。私たちはここから先へと進み、人生を立て直していかねばならない』」

 「被害者のパートナーは、加害者が被害者だけでなく、被害者と自分との関係をも変えたのだという事実と向き合わなければいけません」

 「被害者のパートナーははじめのうち、新しい状況に抵抗を示しますが、彼らの愛が強ければ、それを受け入れ、なおかつ対処していくことができるようになっていきます。パートナーは二人とも、新たな関係性、新たな問題の対処法を学んでいかなくてはいけません。多くのカップルは自分たちだけでもそれを成し遂げることができますが、専門家の手引きを受けたほうが一般にはより容易ですし、プロセスもスムーズに進んでいきます」