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PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Chapter 6 Family and Friends 10/16

Forward Thinking(先のことを考える)

 犯罪被害者自身と同様にかれの内部サークルの人々も、より幸福で、より苦痛が少なく、より平穏であろう未来の方角に目を向ける必要がある。

 自分に近しい誰かが犯罪被害に遭ったあと、彼らは一見したところ終わりなき問題、負担、責任、苦難の連続にはまり込んでいる自分を見いだす。恐怖の終わりが一向に見えてこないような場合もある。

 Forward Thinking(先のことを考えること)は、いずれは自分も現在の艱難辛苦にもはや苛まれることのない日を迎えるだろうという認識を得ることをとおして、彼らに慰めをもたらすことができる。

 被害者が回復して健康を取り戻している様子を思い描くことで、家族や友人たちも、やがて自分のもとにも訪れるより明るい未来を信ずることが、すべての関係者にとって現在の苦しみがいつか終わる時が来るのだと信ずることが、できるようになる。

 最近母は私に語った――「最初の日からずっと、私はあなたが再び健康になっているところを常に想い続けていた。繰り返し繰り返し私はあなたに言っていた、『あなたはそれをするようになるよ、テレサ。あなたはきっとまた良くなるよ。私はあなたをまたテレビで観るようになる。あなたはまたダンスをするようになる、また歌を歌うようになる、またお芝居をするようになるよ』ってね」

 「あなたが眠っているときも、私はそんな言葉をあなたの耳にささやき続けていたの。私は自分が言っていることをすべて心から信じていた、そして私はあなたにもそれを信じてもらいたかったの」

 「あなたが落ち込んでいるときには私はこう言った、『あなたは本当にすぐ歩き回れるようになるわよ、テレサ』。ときどきあなたは涙でいっぱいの眼で私を見上げて首を振り、ノーと声には出さずに言っていた。私はその場で泣き崩れてしまいたいと思った、だってあなたをとても傷つけてしまったんですもの。でも私は、もしもあなたに未来を信じてほしいのであれば、私が心を強く持っていなくてはいけない、私があなたを信じさせなければいけないと思っていた――たとえあなたがもっとも弱々しく、もっとも元気がなくて、もっとも傷ついているときであっても」

 「心をかき乱され、恐れ、混乱し、怒っているあなたのことを見るのはつらかった。でも、それでもあなたはなお楽観主義者でファイターだった。だから私はあなたが、あなたの持つそのエネルギーのすべてを注ぎ込んで良くなっていくはずだって思うようにしていたの」

 「あなたがはじめて起き上がった日、私はあなたが歩くところを思い描いていた。それから、あなたが前かがみで背中を丸めて歩くようになったとき、私はあなたが背筋を伸ばしている様子を想像した。あなたが支えもいらずにまっすぐ歩くようになったら、私はあなたがもっと速く歩ける、ダンスができる、走れるようになるって信じた。これらのステップはいっぺんに実現したわけではないけれど、私は心の中では、それがやがて現実になることを確信していた」

 「私たちは恐ろしい災厄に見舞われていた。でもあれは春の季節だったのよ――希望の季節、再生の季節、新しいものが産まれてくる季節。あなたの傷の程度をみれば、回復の過程が長い道のりになることは分かっていた。でも私は心の中では前を見て、未来はより良くなっていくんだって信じていたの」

 「私には実際、選択の余地はなかった。絶望、残酷、恐ろしい知らせの数々、そんなものでばかり溢れかえっていて、本当に苦痛で、ほとんど耐え難かった。もしも私が一瞬でも、こんな状態がこのままずっと続いていくんだろうと信じてしまったら、私は耐えられなかったでしょう。もしも私が、恐怖に脅え、意気消沈して、苦渋に満ちた人生をあなたがずっと歩んでいくのだと想像してしまったら、私の心は張り裂けてしまっていたでしょう」

 「あなたが入院していたころ、私の行く手に見えているもっとも大きな未来の目標はクリスマスだった。それはあなたがいつも変わることなく大好きな祝日だった――そして私もそう。私たちはこのうえなく幸せで素敵なクリスマスをいつも一緒に過ごしていた。あなたがシーダーズ・サイナイの病室でぐったりしてとても弱っていたとき、私は12月を待ち望んで、こんなことを考えていたの――こんどのクリスマスに、私たちはまったくいつもどおり共に過ごす。テレサはキリスト降臨の書割を立てている、マリアは木を刈りこんでいる、トニーは電飾を吊るしている、私は料理を作って家の飾りつけをしている、そしてこのすべての光景は、恐ろしい悪夢がもはや過去のものになったことを示しているようだ。テレサはすっかり回復して、私たちはいっそう仲良くなっている。私はそう信じている、そう知っているんだ!って」

 「クリスマスは9カ月先のことだった、でも私はその時までにあなたが良くなっているって本当に信じていた。私は不思議なくらいそのことを確信していたの。私はクリスマスシーズンへのあなたの愛をよく知っていた――お祝いのお祭り、豪華な式典、プレセント。私はそれが実現することを祈り、信じた」

 「嬉しいことに、それはまるで魔法のように現実になった。あなたと父さんと妹と私とでいっしょに深夜のミサに行ったとき、夢が実現したって感じがした。私はあなたがそこにいることが心から幸せだった――あなたが生きていて、またほっぺたをピンク色にして、まっすぐに立って、聖歌を歌っていることが。そして私たちはみな一緒だった。私たちはみんながあれを生き延びてきたの。あなたの父さんは喜びで輝いていた。マリアも幸福だった、ようやくまたニューヨークの家に戻って、大学生活を再開する準備が整ったことで。私が希望する未来が現実になったの」

 「あなたたち二人が小さかった頃、深夜のミサの後で私たちはジングルベルを鳴らして、あなたたちが寝る前にちょっとした贈り物の包みを開けさせていた。あのクリスマスのときに、私たちは再び同じことをした。私はあなたとマリアに小さな磁器の人形をひとつずつ贈った。私は胸がいっぱいだったけれども、あなたをただ抱き締めるだけで、その日はみんな眠りに就いた」

 「そして翌朝、私は自分がどれほどの幸福感を感じているかに改めて本当に驚いたの。私は電飾を瞬かせているクリスマスツリーの下で、私たち全員を見回した――ああ、みんなが揃ってここにいるんだ――少なくともそのクリスマスの朝に、事件のことや病院でのこと、あの苦しみは悪い夢だったように、本当にそう思えた!」

 「あなたとあなたの妹がロスにいて、パパと私がニューヨークに戻っていたとき――特に秋にかけての時期ね――私は酷く落ち込んでいた。人生は荒涼として、私はいかなる種類の喜びも感じられないかのようだった。私には時間があり過ぎたの――事件のことや、痛みや、裁判や、それらいっさいの理不尽さについて考える時間が。私の毎日は空っぽでだらだらとやたらに長かった。私は微笑むことができなかった。笑うことができなかった。私は暗い穴の中にいて外に出ることができないような感じがしていた。私はあなたが生きていて良くなっていっていることをとても有り難く思ってはいたけれども、あなたがそばにいない今、私はもうあなたのために気分を『上向きに』しておく必要がなかったので、深く、深く沈みこんでいったの。けれども、そのすべての底のほうでは、私はなお小さな希望の芽生えを手放さず大事にしていた。私は自分自身のことだって、たとえ今は落ち込んでいるとしても、いつかは立ち上がる時が来るだろうと信じていた。私には、悲痛な思いや苦さ、哀しさ、怒りを感じる時間が必要なんだと分かっていた」

 「あなたとマリアがとうとうクリスマス休暇でやって来たとき、まるで誰かが私にポンプで生気をパンパンに送り込んだみたいだった」

 「私が欝状態から完全に抜け出すには、クリスマスの後さらにけっこうな月日がかかった。でも、健康でみなが一緒にいられるようにっていう過去の夢が現実になる体験を持ったことは、私にとってとても大きな意義があったわ。どれだけ事態がぞっとするようなものであろうとも、私たちは乗り越えられるってことの、それは証明だったわけだから」

 「回復へと向け前進していくあなたの姿から私は力を受け取った。あなたは女優の仕事を再開していった。あなたは不屈の精神で挑みつづけた。あなたは組織をたちあげた。私は自分に言い聞かせたわ、私がこの子を育てたんだ、彼女がどんなに強いかとくと見てごらんなさいよ、って」

 「そうして私の気分は少しずつ良くなっていった。私は未来のほうを向き、そして思った、ディビーナ、自分のことを褒めてやりなさいよって」

 「このような悲劇を母親が乗り越えていくのは長い時間がかかると思う。母親は子供のことでそれはそれは心を痛めるものだから。でも今、物事は再び順調になっている。起こった出来事について考えれば今でも怖ろしさに胸が痛むけれど、それはもはや夜も昼も私の心を占めてはいない」

 「私はトラウマをあなたとともにくぐり抜けてきた。私は出来る限りの手助けをした。私はあなたのために楽観的であり続けた。私はあなたを勇気づけて、未来への私の希望を守り続けようと努力した」

 「最悪の時期に、私は前を見ることを自分に課していた――この苦痛の向こう側を、私の悲惨さの向こう側を。そして今、大部分において、恐怖は私たちの背後にある。私たちはここにいる――未来は『今』になった――私たち家族は健康で、幸福で、愛情に溢れ、毎日をふつうに生きている。私の夢と祈りは実現されたの。ほかの母親たちに私が言えるのは、『決してあきらめないで、決して!』ということ。たとえどんなことが起きようとも、たとえどんなに事態がおぞましくとも、ひたすら進み続けること。あなたの子供を常に勇気づけてあげること。この苦痛はいつか終わるんだと、自分に絶えず言い聞かせるようにすること」

 

 ダニエル・カイリー(見知らぬ男性とのダンスを断ったあとで撃たれたジャネット・カイリーの兄)は、ピンと張った筋肉質の、スポーツや肉体的活動への情熱に燃える力強い男性である。

 彼の妹に加えられた危害はたいへんなショックではあったが、ダニエルはその出来事を全面的にネガティブなものだと捉えようとはせず、彼女の容態が回復不能のものだと信じようともしなかった。彼は彼自身の流儀でforward thinkingを実践していたのだ。

 ダニエルは最近私に語った、「ジャネットの事件前に起きた出来事が、多くの時間を彼女とともに過ごすことのできる余裕を僕が得るための下準備になっていたと思います」。

 「僕は何年間もダウンタウンで取立代行業の会社の責任者として働いていました。難しくてきつい仕事で、僕はかなり長いこと、給料が安すぎて仕事量は多すぎると感じていました。息苦しくて職場の環境に閉じ込められた感じで、僕は基本的に、たまには屋外で活動することもあって、もっと緩いスケジュールの仕事がしたいものだと思っていたんです。でも僕は何年ものあいだ、そのポジションでベストを尽くしてきた」

 「そして、ジャネットの事件の4カ月ほど前に、僕は賃上げを要求して拒否されました。辞め時だなとようやく悟って、それに、利益分配制度に基づくお金がまとまって入ってくることも分かっていたので、仕事をしばらく休むことに決めました。貯金と利益分配金と、必要ならたまにバイトをすることで食いつなげるだろうと考えていました」

 「僕は以前からたいへんな運動好きだったんで、これは真剣にトレーニングに取り組むいい機会だと思いました。それで、毎日えらく長い距離を走っているランニングのクラブに入りました。それに加えて、自転車と水泳も本格的に始めました、そのうちなにかのレースとかトライアスロンのイベントにでも出場してやろうと思ってね」

 「僕は長時間いろいろとやるべき活動はしていましたが、僕の時間は僕次第で、スケジュールは調整可能でした。そういうわけで、ジャネットが撃たれたあと、僕は大半の時間を彼女のそばにいることができたんです」

 「僕が事件のことをはじめて聞いて、ジャネットに会いに行ったとき、僕の心の中は犯人に対する思いで埋め尽くされていました。僕はときどき、ベッドに何時間も横たわったまま、怒りで体を震わせ、犯人に憎悪を向けていた。でもそれより遥かに大切なことは、どうやってジャネットを助けていくかのやり方を見つけ出すことでした」

 「僕はホーリズムにとても大きな関心があって、ヒーリングやそれに関連するトピックで講習を受けていたんです。それでこのことが起きたとき、僕は自分の『ヒーリングエナジー』をジャネットの方向へと導こうとしました。でも僕の努力にもかかわらず、十分に効果的なエネルギーの接続はつけられていないようだった」

 「こういう考えが僕の心に浮かびました――お前は犯人を許さないかぎり、ジャネットを救うことができない。そこで僕は意識的に犯人を心の外へと逐いやり、彼を解放しました。その後僕は、妹への思いに意識を集中することができるようになりました」

 「ジャネットがICUに横たわっていたとき、状況はおぞましいものにみえたけれども、絶望の入り込む余地なんてないんだって僕は分かっていました。治癒と完全性に向けてすべてを集中しなければならなかった。もしもこのような状況を生き延び、前へ進んでいく力と勇気をもつ人がいるとしたら、それはジャネットだと僕は信じていました」

 「彼女の容態に関する医師たちの所見は厳しいものでした。ですが僕は、彼らの悲観的な見通しを一瞬たりとも信じようとはしなかった。そもそものはじめから、僕はジャネットの麻痺を回復不能なものとして受け入れることを拒否していたんです。そして僕は、治癒へと到る道のりの上に彼女の姿を見続けるための役に立つ、あるテクニックを用いました」

 「僕はジャネットの背中に空いた弾痕をイメージのなかで視覚化して、彼女の傷の状態を思い描きます。それから心のなかで、その領域を癒しの色、癒しの思考、癒しのイメージで取り囲むんです。僕はヒーリングを実践している別の友人たちにも声をかけて、医師のくだしている診断を彼らに話しました。僕たちはみな一丸となって、『病院でどんな話を聞かされようとも、ジャネットは再び歩けるようになる』と心の中でイメージしていくことにしました」

 「あなたは本当にその『ヒーリングエナジー』に効果があると思っているんですか?」、興味に駆られて私は尋ねた。

 「そうだな、こう言ってみるのはどうかな」、彼は答えた、「僕は自分が優れた治療者だとは思ってません。でも友人たちとひとつになって、妹にポジティブな思念を送り続けるのは、まったく何もしないよりは確実にマシでしょう」。

 「もっとも少なく見積もっても、それは僕を、手助けをしようとしているという気分にさせてくれます。それに、僕の意識をあらゆる種類のネガティブな事柄から遠ざけることにもつながります」

 「僕は妹に与えるべき助言を探し続け、自分自身に尋ねました――どうすればジャネットは良くなるのか?どうすれば彼女はそれをすることができるのか?」

 「僕は内心ではジャネットもまた、自分の体を回復させることに力を全面的に集中させるためには、犯人のことを心の外に追い出す必要があると感じていました。ですが彼女はそうする用意ができていないと僕は分かった、それで僕はそれを受け入れました。彼女は自分自身の道を見つけ出し、自分の思うがままのやり方で起こったことに対処していく必要があるんだと思って。ですがそれでも僕は、僕自身のやり方で状況を見つめ、エネルギーをそこに集中させることを続けています。僕はジャネットのためにあらゆるヒーリングを魔法のように実行できたらと望んでいますが、僕ができるのは、僕自身の思いを彼女のポジティブな未来へと向け続け、ジャネットの内なる活力と意志の力を促して、治癒の方向へと導いていくことだけです」

 「ジャネットは再び歩けるようになると僕は心から信じていたし、いまも信じ続けています」、ダニエルは強調した。

 「彼女が自分自身の厳しい努力の結果として歩けるようになるのか、あるいは新たな目覚ましい外科技術が産まれて、医師が障害を治療できるようになるのか、それはまったく予測できません。でも僕は妹を歩いている妹として心に思い描いています。僕が彼女のことを考えるときは、歩いている彼女のことを考えます。僕の夢のなかでは、妹は歩いています。それが現実のものとなることを僕はまったく確信しています」

 「ジャネットにとって、これはある程度まで学習体験なんだと僕は思っています。彼女は僕たちのほとんどが対峙したことのないようなものと格闘することを要求されてきました。しかし、彼女がそれを乗り越えていくのを助けるためには、彼女の周りにいる僕たち全員がジャネットに、そのなかで彼女が健康であり、活動している、本当に再び歩いているような未来を待ち望むように励ましていくことが大切なんだと僕は信じています。彼女はその信念を――希望の光のきらめきをあきらめることがあってはならないのです」

 「この考え方を支えてくれる、ほかの人たちの『ミラクルストーリー』があります。背骨を折り、脊髄に損傷を負って、もう二度と歩けないだろうと言われていた人が、それでもあきらめることなく夢を持ち続け、逆境に打ち勝って本当に再び自分の足で立つことができるようになったという例です」

 「人生はずいぶんと短いものですが、さまざまなことを成し遂げるのに十分なくらいには長いのです。ジャネットが行っているあらゆる活動は彼女にとって良いもので、いずれそれらが足し合わされて、より健康な未来へとつながっていくだろうと僕は思っています。彼女はいま、ハンディキャップのある人向けのエアロビクスの講習ビデオの制作に取り組んでいます。彼女がマットの上で、同じことをするほかの人たちの役に立つやり方を思案しながら、自分を限界まで追い込んでいるのを見るのは素晴らしいことです」

 「ポイントは、注意を障害から治癒のほうへと向けることです。僕の心はジャネットを歩いているものとして想像している。そうです、合理的に言えば、彼女はいまこの時点では、自分の足でどこへも行くことはできません。ですが、彼女の意識と魂の力と、絶えず完全なものへと近づいていく医学の進歩とのあいだで、行き着く結果は『歩くことのできるひとりの人間』だろうと僕は信じています」

 「ジャネットは遅かれ早かれ再び歩くようになるでしょう――でも僕の信ずるところでは『早かれ』のほうになるでしょう。こんな言い方をしてみましょうか――僕たちのバンの中にはジャネットの障害者証明のカードが置いてあって、僕たちは身障者用の駐車スペースを便利に利用することができるんです。彼女は永久資格を持つ権利があり、そうすれば毎年更新する手間が省けるんですが、彼女は一時的なものしか持っていません。ほんの数日前に、彼女は僕に永久資格を取得するべきかどうか聞いてきたんです。で、僕は言いました、いや必要ない、いずれそのうちカード自体がいらなくなるだろうからねって」