PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Chapter 6 Family and Friends 5/16

ほかのひとびとに手を差し伸べる

さまざまな犯罪被害者の内部サークルのメンバーの発言からの抜粋:

  • ミーガンのボーイフレンドのジェイクに感謝したいです。彼がいなかったら私は気がおかしくなっていたでしょう。――強姦致傷事件の被害者の母
  • 私の妻は本当に驚異的でした。彼女はほぼずっと病院に入り浸って、私たちをひとつにまとめてくれました。私は精神的に参っていましたが、ローラのおかげで私はなんとかやっていけたのです。――路上強盗の被害に遭った高齢者の息子
  • 私たちの家族の人たちはあちこちから飛行機で集まって来ました。私たちはホテルの部屋を借りて、一緒に祈り、一緒に食事をし、そうするうちにずっと親密になりました。――銃撃により重傷を負った女性の妹
  • ジムの家族のほとんどは東欧に住んでいるので、ここ合衆国にいる友人みなが結束してぼくたち自身の「家族」を作ったんだ。ぼくたちは責任を分担して、その間ずっとお互いに支え合っていた。そして彼も見事に乗り切ったよ。――暴行事件の被害者の友人
  • 私は妹の旦那さんや彼女の親友に会ったことすらありませんでした。私たちは三千マイルも離れて住んでいたんです。でもあの大変な時に、私たちはまさしく三人で一人でした。彼ら二人なくして、私はどうすればやっていけたか見当もつきません。――誘拐と性的暴行の被害者の姉
  • 私の義理の姉と私のあいだには共通するものはなにもなかった。実際私たちは、ほとんどいつでもむしろ避け合っていたんです。でもブレイクが刺されたとき、彼女と私は力を合わせてあらゆることに対処していきました。私たちはすべてのことを一緒に決め、ブレイクが健康になるまで看病した。しばらくの間アパートをシェアさえしていました。それは一年以上前のことです。彼女と私が今でも最高の相棒だということはできないけれども、私はあの人のことを、あの人が助けてくれたすべてのことを決して忘れないでしょう。――刺傷事件の被害者の妻
  • エルザの上司と職場の同僚は並外れていました。彼らは私たちがここに引っ越したばかりで、この町にはほどんと友人も家族もいないことを分かっていました。それで彼らは本当に力を貸し、助けてくれました。会社は妻が必要としていた車いすを買うための資金を募ってくれました。さらに彼らは、私が存在することすら知らなかったさまざまな重要なサービスを紹介してくれました。それだけでなく、彼らは私を自分たちの家の夕食に招待して、友人として私と付き合ってもくれました。素晴らしい人たちでした。――銃撃事件の被害者の夫

 

 犯罪被害者と近しいじつに多くの人々にインタビューした結果、被害者の友人や親族はほとんど例外なく、ほかの人々に手を差し伸べているのだと私は知るに到った。

 被害者の内部サークルに属していた人の多くは、のちに彼らの体験を、他人を助けることのために引き続き活用していくだろう。いっぽう、危機的な時期とその直後の一時期において、他人にothers手を差し伸べることはたいていの場合、お互いにeach other手を差し伸べることへと変換されている。

 ヴェラ・カイリーは5人の子供の愛情深い母である。彼女のたった一人の娘ジャネット(彼女への私のインタビューは「怒り」の章で取りあげた)が、ディスコで見知らぬ男のダンスの誘いを断ったために銃で撃たれ、麻痺状態に陥ったとの知らせを聞いたとき、彼女はほとんど信じられなかった。病院に駆けつけた後ようやく彼女は、我が子の身に降りかかった厳然たる恐ろしい現実を悟ったのだった。

 幸いにもジャネットの4人の兄は揃って母のもとに駆けつけ、ヴェラ・カイリーとともに、ジャネットと彼ら自身のケアと支援のためのネットワークを築き上げた。

 「私たちはいつも仲のよい家族でした」、ヴェラは最近私に打ち明けた。「8年前に私の夫が他界したとき、子供たちはみな私のところに集まってきました。でも私たちが最近くぐり抜けてきたこの恐ろしい試練は私たちをさらに堅く結びつけました。夫が死ぬ前、彼は息子のダニエルにこう言っていました、お前は一番年上だ、もし私になにか起こったら、家族を守る役はお前に任せたぞ、って」。

 ダニエルは父の望みをまさしく心に刻み込んだ。ヴェラ・カイリーが夫を失ったとき、ダニエルは母の感情的な欲求を注意深く見守り、彼女が彼を必要としているときはいつでも助けることができるよう常に用意をしていた。

 そしてジャネットが撃たれたとき、ダニエルは父にして庇護者の役割を肩代わりした。43歳で独身のダニエルは自分のアパートを引き払い、母と妹のもとに引っ越してきた。カイリー夫人は娘の要求の多くに応えることができたけれども、彼女は車を運転できず、ジャネットの体や彼女の重い車いす、装具を持ち上げたり運んだりすることは物理的に不可能だった。ダニエルはいま、妹を医師やセラピストなどとのあちらこちらの約束の場所に車で連れていくことも含めたほとんどすべての重労働をこなしている。

 「彼は喜びなんです」、カイリー夫人は声を高めた。「彼は決して不平を言わず、いつもジャネットと私のためにそこにいます。この困難な時期を私たちを助けて切り抜けていくことが、このところのダニエルのライフワークなんです」。

 最近私はダニエル・カイリーに会い、彼の暖かくておおらかな人柄に惹きつけられた。スラッとして筋肉質で、彼は見事なスポーツマン体型である――毎日彼は10キロ近く走っている。

 ジャネットと彼の兄のダニエルは明らかにお互いを褒め合う間柄である。ダニエルの態度に、自分が過度な負担を負っているだとか、酷使されているだとか、したくもない役割にはめ込まれているだとかいった感情を彼が抱いていることをほのめかす要素が微塵も認められないのが、私には特に印象的だった。ダニエル・カイリーが家族のためにしていることは、間違いなく愛から来たものである。彼は、このつらい状況に立ち向かうために彼ができるベストを尽くしていることに満足して、自分自身を肯定してゆったりと生きている人のようにみえる。

 ジャネットは家族の輪のまさしく中心にいる。もともと不平を言わず陽気な性格の彼女は、自分が愛され、大事にされていることを分かっており、家族が彼女のためにどれほどたくさんのことをしてくれているかも心得ていて、彼女のほうでもできる限りのことを成し遂げようと努力している。

 「デビッドは私の息子の別のひとりです」、ヴェラ・カイリーは言った。「彼は近所に住んでいて、私たちが通う教会の牧師です。彼と教会の信徒たちはジャネットが撃たれて以来、ずっと彼女のために祈り続けています、そしてそれは私たちみなにとって大きな助けになっています。ですがデビッドは彼の妹のためにただ祈っているだけではありません。彼はほかにもたくさんのことをしています」

 「たとえば、このところずいぶん暑くて、私たちは閉じ込められたような気分を強く感じて、なんだか落ち着かなかったんです。それでそのことをデビッドに言いました。その晩、彼と私は祈祷会に出席して、私たちみなをさらに団結させて、私たちの型どおりの日々にちょっとのあいだ休みを入れるための方法を主に請いました」

 「家に帰る途中で、デビッドはキャンピングカーを指さして言いました、『ママ、あれだよ!』って」

 「翌朝、彼は大きなキャンピングカーを借りに行きました。私たちはみなで一緒にユタ州のほうへ一週間行くつもりです。私たちは、ホテルの部屋にレストランみたいな本格的な休暇を取るゆとりはもちろんありません。そこで私たちはスーパーに買い出しに行ってキャンピングカーにそれを積み込んで、ドライブでお出かけすることにしたんです。そしてこれはみなデビッドがやってくれたことです」

 「家族はいま、お互いを気遣い合っています。ジャネットの身に起こったことは、私たちの一人ひとりにとってとてもつらいことでした。こんなことは怖ろしいショックです。でも私たちはお互いに自分の感情を――良い感情も悪い感情も――さらけ出しながら、相手に向き合っています。そして私たちはみなで仕事を分担し合っています」

 「これがいまの私の人生で、私はそれを受け入れています。娘はこの出来事すべてをとおして本当に勇敢でした。そして私は自分の役割を喜んで担っています――ジャネットの健康状態をチェックしたり、おむつやカテーテルを洗ったり、理学療法の手伝いをしたり、そのほか私がする必要のあることをなんでも。私は彼女の母親で――彼女の秘書でもあり、友達でもあります。私はジャネットのことを『私のルームメイト』と呼んでいて、私たちはとても仲良くやっています」

 「そして素晴らしいことに、私は自分の息子たちを頼ることができます。ダニエルはまさにここに住んでいるし、ほかの子供たちもいつも助けになってくれます。なにかが必要になったら、彼らのうちの誰かに私が電話をする、そうすれば彼らはすぐにここに来てくれます」

 「息子たちはスーパーの買い物や教会に私を連れていき、ジャネットにちょっと外の空気を吸わせたり、約束のある場所に送っていったりを確実にやってくれています。この家族のなかに、恨みがましく腹を立てているような人はいません。私たちはまったく素直にお互いを愛しているし、私たちのジャネットが生きていることを本当に感謝しています。彼女が自分の体を再び元通りに鍛え上げるために費やしている大変な努力を私たちがどれだけ誇りに思っているか、想像してみてください」

 「いま私たちはジャネットの傷――そしてそれが産み出すすべての要求――を、現実として受け止めています。とにもかくにも、しばらくの間はこれが現実なんです。そして私たちは手助けをし、やるべきことをすべてやり遂げる。形式的な決まり事はありません。『ねえ、デーヴ、これをするのはあなたの役目、ママはそれをやって、ダニエルは別のことをする』――私たちはこんな風には言いません。私たちはみな、ただ自分ができることをやり、そのことで私たちは互いに感謝し合っているんです」

 「私は幸運です。私が話せば、子供たちが聞いてくれる。赤ん坊のころから、彼らはいつも私を敬ってくれていました。そしてパパと私は毎日彼らのためにベストを尽くしてきた。いま彼らはこんなにも素晴らしい人間に成長しました」

 「もっともひどい打撃を受けたのは、もう一人の息子のヴィンセントでした。彼とジャネットは何年も社交ダンスのパートナーだったんです。彼は誰であれ自分の妹をこんな風に傷つける人間がいるなんてことを信じられなかった。私が彼が何時間も休みなく泣き続けていたのを覚えています」

 「ヴィンセントはコロラドでファッションモデルをしています、ですからもちろん私たちはそんなに頻繁に彼に会う機会はありません。でも彼は素敵な電話をよこしてくれます。彼はジャネットの気分を奮い立たせるジェットエンジンです。週末ごとに彼は電話をかけてきて、二人は延々と話しています。彼の電話代があまり高くならないように、私はなんとかしてジャネットを電話から引き離さないといけません。でも彼はジャネットにとっておきの励ましの言葉をかけて、彼がどれだけ彼女を信頼しているかを伝え、自分の力を取り戻すために最後までやり抜いていこうと彼女を鼓舞します。そしてもちろんヴィンセントは私も激励してくれます。かわいい子です。彼は州外から働きかけてきて、私たちは皆こちらで今うまくやっています。でも、もし彼が必要とされることがあれば、その時はヴィンセントもこっちに来てくれるでしょう」