読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Chapter 5 Pain 6/10

Ch. 5 Pain
Forward Thinking(先のことを考える)

 成功を収めたマイアミの弁護士のイーディス・バーゼイは、活力あり、自立心に富んだ、たたき上げの女性である。35歳にして、彼女はこの分野でもっとも尊敬を集めている人物のひとりである。創造的にして雄弁、鋭いウィットとゆるぎない楽観主義を具え、彼女は真に責任感の強い人である。

 それほど遠くない以前にイーディスは、ショッキングであると同時に苦痛に満ちた刺傷被害を生き抜いてきた。イーディスは、いま23歳のウィリー・オルシーニと、彼がほんの子供の頃からの知りあいだった。イーディスの親友イヴォンヌの息子のウィリーは常に問題児だった。しかし彼はイーディスを彼の友人にして相談相手だと考えていて、しばしば彼女にアドバイスや援助を仰いでいた。

 成長するにつれてウィリーの抱える問題は深刻さを増し、彼のふるまいはいっそう暴力的、強迫的になっていった。彼は精神病院への入退院を繰り返し、ここ数年は暴力事件も含むさまざまな犯罪で逮捕されていた。

 1984年11月、ウィリーはイーディスの家に押し入り、貴重品をいくつも盗み出した。イーディスが彼のやったことでウィリーを問い詰めたとき、彼は激怒して、もし警察を呼んだら彼女を殺すと言って脅した。このところのウィリーの威嚇的で無分別な行動から判断して、彼が殺人を犯すことは十分にあり得るとイーディスは感じた。

 彼女は警察を呼び、ウィリーは窃盗で逮捕された。収監される際、ウィリーはイーディスに何度も電話をかけ、彼女を殺すとまたも脅していた。彼は大真面目で言っているのだと彼女は分かっていた。

 ウィリーから受けた脅迫のことを彼女は当局に報告した。だが数日後、彼の暴行と精神疾患の記録、そして進行中の電話による脅しにもかかわらず、ウィリーは自己誓約によって保釈された。

 11月20日、仕事を終えたイーディスは、彼女が自分のために買った、静かな海辺の集落の小さな心地よい家に帰宅した。彼女は家に入り、寝室へと階段をのぼっていった。

 ウィリーは大きな肉切り包丁を振りかざして彼女に襲いかかった。揉み合いになり、彼女は彼を床に押しつけ、腕に思いきり噛みつき、持てるかぎりの力で彼と格闘した。ウィリーは腕を振りほどき、彼女は階下へ駆け下りていった。彼は彼女のすぐ後を追いかけ、力づくでイーディスの脇に刃を突き刺した。

 苦悶のうちに彼女はナイフを体から引き抜き、玄関から走り出て叫んだ。「助けて!助けて!刺されたの」。それから彼女は家の私道で気を失った。数秒後にウィリーが彼女の横を走りすぎ、そのまま逃げていった。

 近所の住人が助けに駆け寄ってきた。警察と救急車が到着したとき、イーディスは意識を取り戻した。救急隊員は彼女の体の中ほどを、身をよじるほどきつい止血帯で締め付けた。傷と止血帯の圧迫の両方から来る痛みは耐え難かった。血が噴き出ていた。イーディスは恐ろしい悪夢のなかに囚われているかのように感じた。

 灼けつくような痛みはなおいっそう激しさを増した。救急車で運ばれていくあいだじゅう、彼女は眠りに落ちようとしていた。そのたびに救急隊員が彼女を揺さぶり起こし、名前を呼んだ。完全な意識の回復は、そのつどより強い痛みと向き合うことを意味した。彼女は何度も「私は死ぬの?」と聞き、彼らはすぐに、しかし自信なさげに「いいえ」と答えた。

 救急治療室でイーディスの手術の準備が行われた。止血帯の猛烈な圧迫感が彼女を狂わさんばかりだった。彼女はそれが彼女を押しつぶして死に至らしめるのではないかと感じていた。ようやく彼女は手術室に運び込まれ、十分な麻酔薬が彼女に送り込まれた。感謝とともに、彼女は無意識へと滑り落ちていった。

 イーディスがICUで目を覚ましたとき、彼女はぼんやりとして状況がよく分からなかった。そのとき彼女の脇に激しい痛みが襲いかかり、何が起きたのかを彼女に思い出させた。喉へと挿入されたチューブのためしゃべることができず、彼女はうめいた。優しい若い看護師がベッド脇に来てイーディスにメモ帳を手渡し、鉛筆を持たせてくれた。おかしな話だが、イーディスが最初に書いたことは、彼女のクライアントの一人についての覚え書きだった。

 看護師はメモ帳に視線を落とし、イーディスのことを「ミラクル・ガール」と呼んだ。彼女はイーディスに、彼女の肺が刺し貫かれ、肝臓の一部が切断されていたのだと報せた。「すごいことですよ!」、彼女は大声で言った。「あなたは50単位も輸血を受けたんですから」。

 彼女は口をぽかんと開けて看護師を見つめていた。

 「でもあなたはいま良い具合ですよ、本当に」、若い看護師が言った。「心配しないでください。私たちがあなたのケアをしていきます。全然大丈夫ですからね」。イーディスは安心して、睡眠剤の誘う浅い眠りへといつの間にか落ちていった。

 数分後、イーディスの知らないところで、医師たちは彼女の親友に、彼女の生存確率はわずか2%だと伝えていた。彼らは彼女がまだ生きていて、昏睡状態にも陥っていないことに驚いていた。傷の状態はきわめて深刻で、合併症のリスクは非常に高いと医師は言った。

 しかし、襲撃を受けた週の終わりまでに、医師はかれらの予測を5%に改めた。その後、彼らはイーディスが逆境に打ち勝ったことを認めた。

 彼女の最初の数日間は、痛みと眠り、痛みと眠りの繰り返しで埋まっていた。訪問者が次々に来ては去っていったが、イーディスは彼らのことをほとんど意識していなかった。彼女が考えていたのは、次の鎮痛剤の投与までを乗り切ることと、自分の身の安全だけだった。襲撃後の日々に、イーディスはまだ捕まっていないウィリーが、この病院にいる彼女を見つけ出し、彼がやろうとしていたことを完遂させるのではないかと恐れていた。

 彼女にはさらなる懸念があった。ウィリーの母で彼女の親友のイヴォンヌ・オルシーニのことである。イーディスはもう一人の親友のゾーイに、事件は彼女のせいでなく、イーディスは今でも彼女の友人だと電話で伝えて、彼女を安心させてあげてほしいと頼んだ。

 ゾーイが訪れたときはいつでも、ウィリーは見つかったかとイーディスは聞いた。「まだだ」という言葉を聞くたびに、イーディスの全身を恐怖の発作が襲った。5日後ついに彼が捕まった。イーディスの気分は落ち着きを増した。当局は、ウィリーが保釈金を払って出てくることはないだろうと保証してくれた。

 イーディスは容態の改善に向けて集中することができるようになった。きわめて独立心の高い女性として、彼女は自分の体がいろいろな機械につながれた状態にあるのを嫌悪していた。そして、もっとも単純な作業すら意のままに行えないことが彼女を腹立たしくさせていた。

 最近になってイーディスは私に言った。「私が直面していた肉体的苦痛は、それまで経験したことのないものでした。私は自分の心のなかに、I’m in pain, I’m in painとひっきりなしに金切り声をあげているレコード盤があって、レコードの針が同じ位置で空回りを続けているかのように感じていました。私はなんとかして空回りを止めてやらないと、おかしくなってしまうと思っていました」。

 「私が本当に痛みに苦しんでいて」、彼女は続けた、「痛い痛いを連呼しているレコードが頭のなかで空回りを続けているとき、私は自分の考えを私が持っている良いものや良いことに向けようと努めていました。法律の分野での輝かしいキャリアだとか、素敵な友人、私の愛する馬、申し分ない社会生活のことなど。私はこのまともじゃない事件とそれが招いたきびしい肉体的苦痛に、私が懸命に努力して築き上げてきたすべてのものをぶち壊しにさせることを許したくはなかった。私は最悪の時期をくぐり抜けているところで、私は弱々しい哀れな負け犬じゃなくて勝者なんだと、数え切れない回数、自分に言い聞かせていました」。

 「私が自分自身のためにやった唯一無二のもっとも大切なことは」、彼女は断固とした口調で言った、「自分の考えを現在のみじめな現実から可能なかぎり遠くに向けることでした」。

 「私が居たかった最後の場所はその殺風景な病院の中。私が感じたかった最後のものは痛み。それで私は、自分がこれから経験するつもりの人生について考え続けました。私が会うつもりのひとびと、私が感じようと思っているこのうえない肉体的な安楽。私は自分が強い女性であることは常々知っています、そして私が回復するだろうということも分かっていました。私は未来の視点から自分のことを考えようとしました。私は、健康である/病んでいない、快適である/痛みを感じていない、強い/弱くない自分をイメージしました」

 「私は少なくとも自分の直面する問題に関しては、正反対のことを考えるよう自分に課していました。もしも私が不快さを感じたら、私は静かにこう考える、『イーディス、もうすぐあなたは素晴らしい気分を感じるよ』。もしも筋肉がこわばり痙攣したら、『もうすぐ筋肉はリラックスして落ち着いた状態になるよ』と考える。私は現在の苦痛を自分に経験はさせましたが、それを永続するものと考えることは許しませんでした」

 イーディスは自分自身に、どれだけ痛んだとしても痛みは一過性のものだと絶えず言い聞かせていた。ありがたいことに医師たちは彼女がすみやかで着実な改善に向かっていることを彼女に伝えた。

 愛する我が家に帰宅したときのことと、彼女が秀でている仕事のことを考える、それが彼女の心をその瞬間の苦痛と恐怖から引き離し、健康で、痛みから解放された未来へと焦点を定め直すことにつながっていくのを彼女は発見した。 

 「実際のところ、痛みに対してあなたができることは、それを受け入れること、それを耐え忍ぶこと、それを和らげるために薬を恵んでもらうことのほかにはさほど多くありません」、イーディスは話した。「でもあなたの心を単調で退屈な病院暮らしから遥か遠く隔たったどこかに置くことは、本当に役に立ちます」。

 「もちろん」、今振り返ってイーディスは言う、「私はそこに横たわってこんなことばかり繰り返し考えていることだってできたのです――私はいつも親切にしていた親友の子供に刺された。私の肝臓の一部は失われた。私は一生消えない傷を負った。私はおそらくさらなる手術が必要だ。私の医療費は天文学的数字になる。フェアなことはなにひとつない。私は苦悩の只中にある。私は死にたい…。そしてこれらはすべて真実です。でもこれらのおぞましい考えがどこへ私を連れていってくれるっていうんでしょうか?私はいっそう思い悩み、いっそうふさぎ込み、いっそう傷つくでしょう。ですから、私の心がそんな陰鬱な方向へ向かっているのに気づいたときは、前を見続けようと自分に言い聞かせたのです。私が置かれているみじめな状態にあって、物事がこれから改善へと向かっていくことはまず間違いないだろうと私は思っていました」。

 イーディスが心を集中させたもっとも大切な事柄は、家に帰ることだった。彼女は愛する犬と2匹の猫のことを何時間も心に思い描き、パチパチと爆ぜる心地よい暖炉のそばであたたかなベルベットの長椅子に丸くなって座っていたらどんな具合だろうとイメージした。彼女は友人のゾーイに頼んで、お気に入りの柔らかい、ハート形をした枕とダウンのかけ布団を病院に持ってきてもらい、これらの使い慣れた寝具の存在に彼女は心を落ち着かせた。眠るときも、彼女は居心地の良い小さな自分の家に再び戻っているところを夢みていた。彼女らしいウイットでイーディスはこう言っている。「私はオズの魔法使いのドロシーみたいな気分でした。私が言うこと、考えること、それに夢みることといったら、『おうちが一番!おうちが一番!』、それだけでしたから」。

 「私はよく自分の考えを、非常に具体的な未来の一点に向けていました。例えば、私があの狭くて檻みたいな病院で眠れなかったときは、こんな風に考えていました――10日以内に私は自分の家のベッドに横になっているだろう、脇にいてすり寄ってくる犬や猫といっしょに。そんな想像は私をリラックスさせ、ちょっと一休みさせてくれました。なぜなら、私は終わりを間近に見たからです。私が退院後の出来事や状況を思い浮かべたとき、私は、少なくとも自分の心のなかでは、現実の生活に戻りつつあったのです」

 ほかの傷に加えて、彼女は圧迫神経を患っていた。そのため、彼女は首と肩に絶えず痛みを感じていた。看護師があまり忙しくないとき、かれらは痛みを和らげるためのマッサージをしてくれた。

 彼女の友人のゾーイが名案を思いついた。彼女は近所のヘルスクラブに行って、プロのマッサージを4回受けられるカードを購入した。イーディスの体がとりわけ強張って痛んでいたある日、ゾーイは彼女にカードをプレゼントした。イーディスは笑って友だちを抱きしめた。続く数週間に彼女は、自分の痛む背中を巧みに揉みほぐしリラックスさせていく指圧師の指を実際に感じることができるくらい熱心に、体の奥にまで届く心地よいマッサージのことを想像し続けていた。

 「私はどんな指圧師も私の期待には応えられないくらいのレベルまで、そのマッサージをめぐって夢想を繰り広げてましたね」、イーディスは打ち明けた。「最終的に私はカードを使うことができたんですが、プロの方たちの技より、私を揉みしだいていた看護師の何人かのほうが上手で気が効いているってことを私は発見しました。でもあの想像上のマッサージは最高でしたよ!」。

 彼女は法律家としての職務を愛していた。そこで彼女は、仕事に復帰している自分をイメージし、そのプランを立てることに時を費やした。彼女は自分の同僚とクライアントをともに恋しく思った。

 それができそうだとイーディスが感じるやいなや、彼女はパートナーに頼んでオフィスから書類をいくらか持ってこさせた。彼女は電話で今後の仕事に関しても取り組んだ。彼女は昔からのクライアントに電話して自分の容態を報せ、電話口で相談にも応えた。

 「病院で仕事をしているとき、大きな痛みは滅多に感じませんでした。私の仕事の多くは電話でのやりとりでしたし。もちろん、私は時おり薬のせいでちょっとぼんやりしたり忘れっぽくなることもありました。でも私がすることのできた仕事の時間は、私にとってもまたとない薬でした」

 心の目のなかで、イーディスは彼女の法律事務所を思い描いていた。それを眺めていくなかで彼女は、事務所のなかを模様替えしてみようと心に決めた。座して待つタイプの人間でなかったイーディスは、近所の内装業者を病院に呼び寄せた。彼は建材の見本と数々のアイディアを携えてやって来た。彼女はいくつかを選んで、さらなるスケッチとアイディアを求めた。イーディスが仕事に復帰した頃までに、内装業者は事務所の改装をほとんど終えていた。

 いま彼女は、明るく、美しい、ウルトラモダンな事務所で仕事をしている。「私は数ヵ月くらいかけて事務所を改装したいとずっと思っていたんですが、単純に時間がなかったんです」、イーディスは言った。「それで、病院で寝ているあいだに、私は建材や色を選んだり、アイディアを求めて雑誌を見たりといったことに多くのエネルギーを注ぎこんでいました。私はただ単に未来のことを思っていただけではなくて、実際になにかをしていたんです。そして私は大きな間違いを犯したりはしませんでした。私はオフィスの見栄えをいま本当に気に入っています。私のクライアントがオフィスの装飾を褒めてくれたとき、私はときどき彼らにことの経緯をちょっとばかり話してみることがあります。彼らはたいてい面白がって聞いてくれますよ」。

 医師が痛みを伴う不快な医療処置をイーディスに施しているとき、彼女は自分の頭のなかをいま現在から脱出させることに最善を尽くした。彼女は手作りの宝石が好きで、職工の友だちが細工してくれた美しくエキゾチックな宝石のいくつかを自分が手にしているところを夢みてみるのだった。

 「それは相当奇怪なことでしたけどね」、彼女は思い出して言う。「その間ドクターは、排液チューブを私の胸に差し入れたり引き抜いたりしているんです。いっぽう私はそこに横たわっていて、頭のなかにはおしゃれな宝石ベルトだとか、おしゃれじゃないダサいブレスレットだとかの考えを飛び回らせているんです。でも、厳しくつらい現実に意識を集中させているのに比べればどんなことだってマシでした。これらの単純な心のイメージは痛みを止めてはくれませんでした。ですが少なくとも気散じにはなりました」。

 イーディスは医師をどうにか説得して、3週間後にはもう退院した。それは彼女の傷の程度を考えれば著しく短い入院期間であった。

 「あの事件とその後の回復期は悪夢のようでした」、イーディスは私に語った。「痛みと恐怖とフラストレーションが相まって、私を地獄にいるような気分にさせました。でも私は、あれほどまでに死へと近づいたことで、人生についてのずっと深い理解を得ることもできました。私は自分が相当なラッキー・ガールなのだと気がつきました。私は仕事のキャリアの上での成功を謳歌し、経済的にも恵まれていて、素敵な家があって、私のことを愛してくれる友だちがいる。誰もが立ち止まって自分の人生をじっくり振り返る機会をもてるわけではありません。私はそれをすることができました。そして私は、つらい回復期間中に私がすがっていた夢想の数々は、単に私がそれまでずっと送ってきた現実の日々の暮らしを思っていただけのことだったと気づきました。それらは苦難の時期をとおして私を支え続け、そしていま私は、あの夢のような、心地よい、痛みとはほとんど無縁の日々を実際に生きています。私はただ、今日ここにいるということだけでラッキーだと感じている、そう私は正直に言うことができます」。

 多くの犯罪被害者と話してきて、私は彼らの大半が、より良い未来に意識を集中し、それに向かって計画を立てていくことによって、おぞましく、御しがたく、苦痛に苛まれる現在からのある程度の救いを見いだしていることを確信した。単純だって?そのとおり。しかしきわめて、きわめて効果的なのだ。