PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Chapter 5 Pain 4/10

 襲撃によって私が患った圧迫神経は、のちに私の首や背中、肩にかなりの痛みとストレスと緊張を引き起こした。不快感を完全になくすことは二度とできないように思われた。今でも私の首と肩は強張りがちである。しょっちゅう私は苦痛をやわらげるために、首を左右に回したり、肩を指の先でマッサージしたりしている。

 トゥーミン博士は私がこれをやっているのに気づき、バイオフィードバックの実演を私にやってみせてくれた。彼女は私を座り心地の良い椅子に座らせて機器を取り出し、私の首と肩の両側に小さなセンサーを取り付けた。機器のスイッチを入れて、トゥーミン博士は私たちが注意して見るべき一角を指し示し、私の体のセンサーを付けられた部位のストレスのレベルを示す数字を私に教えた。予想どおり、それらの部位の緊張のレベルはかなり高かった。

 次いで彼女は、私が緊張をやわらげるためしょっちゅうやっているとおりに首を回してみるようにと私に言った。数値は上昇した。首を回すことはストレスを付加させることをフィードバックははっきりと示していた。トゥーミン博士は頭を前後にゆっくりうごかすようにと私に言った。私はそれを数回行い、ストレスの数値は下がった。私の体が私の動作によってどのような影響を受けるかをこの目でしかと見るのはじつに興味を惹かれることであった。

 次に私は肩のマッサージを試してみた。やっているうちに、私は自分が指で肩を押し上げていることに気がついた。そしてまたしても、私の習慣的な「緊張緩和」法を実践していくにつれて、緊張のレベルは跳ね上がった。

 「う~ん、どうやら私はまったく間違ったことをやっているみたいですね」、私は言った。

 「そうなんです、でもあなたは今まで、そのことに関するいかなる証明も得ていなかったんじゃありませんか?」、彼女は答えた。

 私たちはいくつかの簡単な肩の運動を試してみて、私にとってもっとも有効なのは、肩を押し下げることと、腕を緩やかにぶらぶらさせることだと発見した。

 その次に私たちが行ったのは、私の首と肩の筋肉をリラックスさせるために役立つ視覚化の技術である。最初にトゥーミン博士は、気力がどれほど私の筋肉に影響を与えるものなのかを私に示したいと語った。

 「なにか本当にいやなことを思い浮かべてください」、彼女は言った。

 最初に私の頭に浮かんだ不愉快な考えは、今週私は納税をしなければいけないということだった。痛っ!私は自分の首に疼きを覚え、モニターの数値はゆっくり上昇をはじめた。

 トゥーミン博士は言った、「もっと嫌なことを思い浮かべてください」。

 それで私は、私を刺した男がたった6年の服役で放免になるだろうことを考えた。目をきつく閉じて、私は心のなかで憤った。「忌々しい!まったくフェアじゃない!」。そのとき私はトゥーミン博士がこう言うのを聞いた。「まあ!あなたはなにかにとても怒っていますね。ほら見て!」。

 私は目を開け、ストレスの数値がロケットのごとく跳ね上がっているのを見た。

 「オーケー、それじゃあ」、トゥーミン博士は言った、「なにか素敵なことを考えてみましょう」。

 喜んで私は愛らしい木だとかさらさら流れる小川、草に覆われた斜面などに意識を集中した。数値はほとんど動かなかった。トゥーミン博士は肩をすくめて言った、「もう一度やってみて」。

 私の心象はあまりにも一般的すぎたのではないかと考えて、私は再び目を閉じ、地球上で私がもっとも好きな場所のひとつを思い浮かべた。イタリアはティボリのヴィラ・デステ。私は自分がそこの美観のなかに立っているところをイメージした。美しい噴水、走る水がいたるところにあった。そよ風が私の顔を撫でた。暖かな陽の光が私の頭上に降り注いでいた。天国的だった。

 トゥーミン博士はつぶやいた、「さあ、数値を見てください」。私は目を上げ、ストレスレベルが私の「トラブルゾーン」より少なくとも10ポイントは下がっているのを確認した。私は魅了された。

 「へえ、これは面白いですね」、私は言った。

 「もちろんそうです」、彼女は答えた。「患者はみなこれを気に入ります。あなた自身の力の証をまさに自分の眼前に見ているとき、あなたが無力感なんて感じるのは難しいんじゃないですか?」。

 私はまったく同意した。たった数分のうちに、私は自分にとってなにが有効でなにがそうでないかを見きわめることができた。プロセスはシンプルで楽しく、結果はまったくもって具体的だった。インチキはまったくなかった。モニター上の数値は嘘をつかないのだから!

 前向きな気力は効力を発揮するということの証明を得て、私は素敵な気分になった。襲撃の後に無力感や抑鬱を感じている被害者にとって、バイオフィードバックは素晴らしい治療手段になると私は心から信じている。

 

 「痛みのプロ」との会談で次なる議題にあがったのは、エンドルフィンと、それがいかに痛みの耐性のレベルに影響を及ぼすかについての議論だった。エンドルフィンはオピエート様物質の一種で、人体では中枢神経系において自然に産生される。それは痛みの閾値を高めて鎮静作用と多幸感をもたらす。

 ペインスクールへやって来るおのおのの新たな患者にとってのゴールは、患者の苦しみを低減させるためにエンドルフィンの分泌量を増やすことである。スコラロ、カッペラー両博士は、肉体的トラウマを受けたときおよびその直後に、人は内因性のモルヒネ様化合物を分泌し、急性の痛みや肉体的傷害から個体を守るためにそれを利用すると説明した。痛みの耐性レベルは、したがって大きく上昇する。エンドルフィンとアドレナリンの産生が昂進するとともに、生存を第一の目的とする態勢が整っていく。警戒レベルと素早く判断する能力が大幅に向上する。

 のちになって危機が去ると、大きな変化が生じる。被害者が自分の苦境と苦痛を感じ、この状況は変更不可能だと認識したとき、かれの痛みへの耐性レベルは下がっていく。かれの免疫系すらもストレス状態に陥るだろう。感染症にかかり、自分が「バラバラになった」と感じるかもしれない。眠ることや食べることができなくなるおそれもある。

 病気や怪我はいまや医学的には鎮静状態にある――つまり患者はトラウマによって死ぬことはなく、かれの医学的な状態は制御下にある――にもかかわらず、かれは深刻な痛みを経験しているかもしれない。

 この時点で患者のエンドルフィンはもっとも欠乏した状態にある。かれはよく眠り、よく食べ、通常の性生活を送り、希望や喜びを体験するのに必要な神経化学物質を欠いている。この欠乏状態は深刻な抑鬱を伴う。患者は自分の悲惨さに終わりを見いだせず、まったく報われず、完全に無力だと感じている。こうした状況のもとで、かれの痛みへの耐性ははるかに小さくなっているだろう。

 抑鬱状態は心理学的観点と同程度に、生物学的あるいは神経生物学的な観点からも捉えることができるとカッペラー博士は信じている。「大半の患者はペイン・プログラムに加わった時点でエンドルフィンを十分産生していません」、彼は言った。「そこで、生理学的、医学生物学的、心理学的観点から、私たちは彼らの苦痛を減らすために、彼らのエンドルフィンの量を増やそうと試みているのです。これは多様な方法を駆使して行われます」。

 「患者は肉体的、心理的なリハビリにおいて積極的であること、瞑想をすること、人間の体とその機能について学ぶこと、日々精力的に運動実習に取り組むことを促されます」

 「疼痛患者が動くことを強いられたとき」、トゥーミン博士が意見を差し挟んだ、「ある程度の不快感が生じることが期待されます。そしてそれに対する応答として、体はエンドルフィンの産生を強いられるのです」。

 クリニックのすべての患者は自転車に乗ったり、ランニングマシーンで歩いたり、活発なゲームを行ったりといった活動に参加している。彼らがやっていることはオリンピックの準備と同じくらい重要なことなのだと患者は教えられる。そしてそれは実際にそうなのだ。

 「私たちは患者たちにこう伝えます」、スコラロ博士は言う、「彼らのために開かれている脱出口あるいは窓がある、彼らの苦痛から逃れる道があるのだと。ですがそこに辿り着くために、彼らは肉体面と精神面のリハビリに、関心を持っておおいに励まなくてはいけません」。

 「オピオイドについて私たちが知っていることのひとつは、それが内因性であれ(エンドルフィンのように)、外因性であれ(モルヒネのように)、人はそれらに対して急速に耐性を発達させるということです」

 「天然のオピオイドが作用を発揮するためには、それらに対する受容体を有する神経細胞に付着しなくてはなりません。神経細胞はエンドルフィンにきわめて急速に順応していきます。したがって、エンドルフィンは数時間か数日しか作用せず、そしてそのとき、エンドルフィンの働きにより苦痛を処理する能力はピークを迎えます」

 エンドルフィンの産生過程を理解することは、深刻な慢性的苦痛に生物学的な要因が関わっているという事実を私たちに再認識させる点で重要である。しかし、それとともに私たちは、心理学的介入を積極的に行う方向へ向けても努力していかなくてはならない。

 「疼痛管理において普遍的に認められているもうひとつの因子は集団力学です」、スコラロ博士は言った。「疼痛患者たちは共通の絆を分かち合っています。そしてアルコール中毒者更生会のように、痛みと付き合ってきた自身の個人的体験を基にして、お互い同士で援助や助言を与えあうことができるのです」。

 トゥーミン博士が同意して付け加えた。「痛そうな行動よりも健康そうな行動を強化することが非常に重要です。活発であり健康であることへと向かうすべてのステップは、積極的で熱烈な支持をもって応えられるべきです」。

 「疼痛患者の友人や親類の側の良い反応は、『ああ、そこで寝てなさいよ。お皿を取ってきてあげる』よりもむしろ、『ほら!今日はもう起きなさいよ。キッチンに行ってお皿を取ってきたら?』なのです」

 スコラロ博士は力強く肯いた。「そのとおりです!そして私たちが痛そうな行動よりむしろ健康さに報酬を与えることを始める際、私たちヘルパーは、助けを求めて私たちのところに来るひとびとからの多くの反抗、敵意、怒りを受け止めることができなくてはなりません。彼らの多くは面倒をみてもらえることに慣れ切ってしまっているのです。いま彼らは、自分の苦しみを操り、減らしていくために、まず彼らが自分自身に対して責任を負うようにならねばいけないと知ります。この修正を行うのは彼らにとってかなり難しいことです」。

 「大半の病院では看護師が朝食を持ってきて『さあ、○○さん、今朝の具合はどうですか?』などと言います。ペインスクールの看護師はこう言います――朝食に遅れますよ。急いで!」

 「私たちはすべての患者に、ペインスクールを卒業したらなにがやりたいかを尋ねます。そして私たちは彼らに、生産的な一個人としての将来の仕事について考えるよう強く促します。彼らのすべてが以前行っていた仕事へと復帰できるわけではありません。肢を失ったり、麻痺したり、ひどい障害を負った人もいるわけですから。しかし彼らは自分のための目標を設定することが求められ、それらの目標を追求していくよう励ましを受けるのです」

 「私たちは一日の全体にわたって運動セッションを組み込んでいます。あなたはハンディキャップを負った人がどれだけ肉体的に活発であるかに驚くでしょう。それは体にとっても心にとっても良いことなのです。私たちは『ストレス管理』と呼ばれるグループセッションも行っていて、そこでは患者はあらゆること、いかなることについても話をします。彼らはさまざまなハードルに関してお互いに助け合い、彼らの不安と苦痛に対処する方法を議論します」

 「体そのものについての講義もあります。私たちは患者に肉体についての理解を深めてもらうことに多くの力点を置いています。それがどのように動くのか、神経はどう作用しているのか、といったようなことです。そのメカニズムを把握したとき、体は管理可能なものにみえてくるのです」

 「私たちは日々、『疼痛管理』のセッションを実施します。これはバイオフィードバックや瞑想、筋肉のリラクゼーションをメニューに含みます」

 「誘導イメージ療法や視覚化をとおして、私たちは彼らに筋肉群のおのおのをリラックスさせるやりかたを教えます。これらのセッションの後で患者は劇的な痛みの低下を報告しています。定期的な活動に加えて、必要とする人に対しては適宜医療処置も施されます」

 「7~10日後に、私たちの生徒たちは入院によるプログラム受講の部から卒業し、朝の5時半に自分で起きて、家から私たちが言うところの「出勤」をするパターンへと移ります」

 コースの修了時にどんなことが起きるのか気になった私は、ペインスクールは決して突然の終わりを迎えるわけではないと聞いて興味を覚えた。3カ月のプログラムの後で、患者は彼らがは切に必要としていた強化を与えられている。彼らは驚くべき達成を成し遂げている。スコラロ博士は声高に言った。「奇蹟は起きるのです。私たちは患者に言います――あなたが二度と歩けないという事実を受け入れましょう、しかしあなたの足の状態の改善に向けて出来得るかぎり努力しましょう。医療技術は常に進歩しています。あなたの症状に関わるあらゆる種類のブレイクスルーが間近に迫っているかもしれません!」。 

 「脊髄に損傷を負って、理屈の上では残りの人生で麻痺状態が続くはずの患者を私たちは何人も受け持ってきました。彼らのなかには車を運転できるようになった人も、一人でアパートに住んでいる人もいて、なかには自分の足で再び歩けるようになった人もいます!」

 「コースが終わってしまう時に患者さんは気落ちしていますか?」、私はスコラロ博士に尋ねた。

 「もちろん、そのとおりです」、彼は答えた。「それは私たちのプログラムに参加した患者がコースのメインの部分を完了した際に経験する自然な感情です。しかしそれでまったく終わりというわけでは決してありません。『あなたはプログラムから卒業しました』と私たちは言います。しかし私たちは彼らに、週に一度か二度、公開のミーティングに参加することを薦めます。これは無料です。これらの集会の席で、彼らはプログラムに新たに加わった人たちにも会いますし、私たちとのコンタクトも保たれます」。

 「何年にもわたって」、スコラロ博士は続けた、「プログラムを受ける前の、当初の痛みの状態へとプログラム修了後に戻ってしまう患者の割合はほんの5~10%です。多くの場合彼らは、ペインスクールとのある種のつながりを保っていなかったか、積極的な疼痛管理のテクニックを自ら実践し続けなかった人です。新たなより良い方法を実践し続けていない限り、もとの習慣へと容易に退行してしまうものなのです」。

 スコラロ博士は付け加えた、「ペインセンターが行っているのは、障害を負って非機能的な状態にある人を受け入れ、彼らが十分なリハビリを受けて、『さあ、ドアは開いている。人生が再び始まるんだ!』と言うことができるような地点にまで彼らを導くことです」。

 「痛みを抱える犯罪被害者に対して、あなたはどのような理由を挙げてかれにペインセンターに来ることを薦めますか?」、私はスコラロ博士に聞いた。

 彼は答えた、「犯罪被害者は、かれの痛みと、かれが受けた暴行に対する心の執着の度合いが、健常な生活能力を長期にわたり深刻に損なう、あるいは完全に破壊するほどのものである場合には、私たちが提供しているような包括的な疼痛管理プログラムを検討するべきです」。

 出口はどこにもないと、自分が体験している苦痛は克服しようのないものであると、自分の人生がまったく無意味なものにさせられてしまったと感じている犯罪被害者にとっても、間違いなく希望はあるのだ。ロサンゼルスのペインリハビリテーション・プログラムで、同様の様々な施設で、援助は用意されている。

 心理療法集団療法、運動実習、瞑想、視覚化とリラクゼーションの技法、バイオフィードバック、さらにもっと、ずっと多くの手段が私たちの手のうちにある。

 痛みはひとを傷つける。そしてそれは私たちの人生を破壊し、変貌させてしまいかねない。しかし感謝すべきことに、痛みを緩和する安全で効果的なもろもろの手法が存在する。セラピーは私たちが痛みを克服し、人生の楽しみを再び取り戻す手助けをしてくれる。