読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Chapter 5 Pain 10/10

Ch. 5 Pain

 その後リタとテリは週に2、3回会うようになった。彼らは殴打に関する本や記事を貸し合って読んだ。

 リタは、虐待された女性と、彼らがどうメディアで取り扱われているかをテーマとして修士論文を書くことにした(彼女は州立大学でコミュニケーション学を専攻していた)。

 学べば学ぶほど、彼女は深く問題に関わっていった。彼女は殴打だけではなくほかの種類の暴力的犯罪についても調べはじめた。

 テリとリタが互いの体験を分かちあってから約2ヶ月後、テリは仕事の都合で南カリフォルニアに移らなければならなくなった。お互いの友情と支え合いの日々を彼らは惜しんだが、二人がともに大きな成長を遂げていることも自覚していた。

 テリが引っ越したあと、リタは見つけた文献を片端から読み漁り、ひとりで問題を探究し続けた。学んだことが彼女を行動へと駆り立てた。何ヶ月も前の祈りに対していま神が、他者を助けるという方向を指し示すことで答えを教えてくれたことを彼女は悟った。彼女は本を読んで仕入れた新たな知識だけでなく彼女のつらい個人的体験を、ほかの被害者に手を差し伸べることによって役立てることができたのだった。

 リタは地元の弁護士事務所に電話をかけ、かれらの被害者・証人支援プログラムに自分がどう関われるかについて尋ねた。プログラムの代表はリタに、ボランティアの取りまとめ役のキャサリンデブリンに会いに来ることを勧めた。

 リタの個人的体験と、彼女が独力で行ってきた広範な調査研究の話を聞いたあとで、キャサリンはリタが支援プログラムの発展に重要な役割を果たしてくれるだろうとの考えを伝えた。犯罪被害者は法廷への同行や審理の場への送り迎え、作業の手伝いや情報提供、その他さまざまな手助けを必要としている。地方検事事務所の人々はそれらの求めに応じようと努めていたが、サービスの需要に応えきれるだけの人数のスタッフを擁してはいなかった。それに加えてキャサリンは、犯罪被害者権利週間が間近に迫っていることをリタに伝えた。インタビューに応じてくれる実際の犯罪被害者を探している新聞やテレビ、ラジオ局から、事務所はしょっちゅうコンタクトを受けていた。リタは魅力的で、知的で、喋りも達者だった。彼女は犯罪被害者としての個人的体験と、体験を裏付けるその後の学習による知見の両方を具えていた。

 「あなたはインタビューだとかの話す仕事に興味がありますか?」、キャサリンは期待をもって尋ねた。

 ためらうことなく、リサはええと答えた。その晩リサは祈り、彼女を正しい方向へと導いてくれたことで神に感謝を捧げた。

 そうしてリタは地方検事事務所のなじみの顔になった。リタはそこに週2、3回通い、可能なかぎりの情報を吸収した。新入りのボランティアにキャサリンはしょっちゅう手伝いを依頼した。

 クレア・ディレオという年配の女性が若い暴行犯にひどく撲られた。彼は社会保障小切手とほんのわずかな現金を盗んでいった。3ヶ月後、犯人がようやく逮捕された。キャサリンはリタに、クレアを公判前審問にエスコートすることを頼んだ。

 クレアの小さなアパートにリタは朝早く着いた。その小柄な女性は震えて、恐怖に脅え、裁判所に行く気がまったく起こらないようだった。リタは座ってしばらく彼女と話し、自分自身の体験についても少しばかりクレアに語った。法廷では身の安全は守られるということを、彼女はその年上の女性に請け合った。ついにクレアは行くことに同意した。リタは彼女を車で裁判所まで連れていき、彼女とともに待機し、審問の場ではすぐそばに付き添っていた。

 終わったあとの帰路の途中でクレアはリタに声を上げて言った。「これをやることを私に説得してくれてありがとう。私を傷つけた少年はお偉方みたいなふてぶてしい態度で座ってたわ、憎々しげな目で私を睨みつけながら。彼は罰を受けるに値する。そうすれば彼は別の誰かに同じことをやろうとはたぶんしなくなるでしょう」。

 その後、クレアは裁判に最後まで立ち合い、少年の公判で証言を行った。彼の若さのため、判決は比較的軽いものだった。しかし検事はクレアに、彼はもし彼女の証言がなければなんの罪にも問われることなく無罪放免になっていただろうと語った。 

 犯罪被害者権利週間が到来し、リタははじめて記者のインタビューに臨んだ。彼女はインタビュー内容に十分に精通し、十分な準備もしたつもりだったので、記者の質問にも余裕をもって答えることができた。インタビューはリタの事件について少しふれ、殴打と暴力的犯罪の問題に――そして被害者としてのリタの意見に――焦点を合わせていた。記事の終わりには、被害者が支援を受けられる場所のリストが掲げられていた。

 記事とそのなかの彼女のコメントに感銘を受けたひとびとが終日リタに電話をよこしてきた。仕事のあと、支援プログラムの事務所に彼女が立ち寄ると、スタッフが興奮した様子で彼女の周りに集まってきた。彼らはリタに、記事に対する反応の電話が一日じゅうかかってきていることを伝えた。ひとびとは援助と情報をともに求めてきた。リタは、支援を受ける道へと犯罪被害者たちを導く手助けをするうえで自分の果たした役割にぞくぞくした。

 はじめのうち、彼女自身の襲撃体験について話すことは難しかった。しかし話すたびごとに、彼女の体験を分かち合う行為は苦しさを減じていった。リタはただ同じ話の焼き直しを語っているのではなく、他人が問題をよりよく理解することの手助けとして、また、犯罪被害者に支援を求めることを促すための契機として、自分自身のつらい試練を活用しているのだという事実に彼女は意識を集中させた。彼女は殴打事件の被害者らにくりかえし、告訴をし、裁判をやり切り、沈黙を破って加害者に罰を受けさせることの必要性を説いた。

 彼女の通う教会の牧師はリタに集会の席で話をしてくれるように求め、彼女は快く応じた。教会に集う信者たちを前にした話のなかでリタは、彼女の試練からの再起において神の果たした役割を強調した。彼女は教会の信徒に、被害者のグループに関わり、すすんで時間と奉仕を提供することを促した。彼女は彼らに、自分が接する人々のなかに襲われた経験のある人が含まれているかもしれない可能性に向けて耳と心を開いておくことを求めた。そして彼女は彼らに、沈黙は答えではないのだということを知らしめた。

 集会の場で話すことは解放感があった。彼らの反応は暖かく、オープンであった。リタは自分の危機の最中に、教会に集う人々のコミュニティーのことを気にかける余裕がなかったのを申し訳なく思った。しかし彼女はいま自分がそこにいることが嬉しかった。何人ものティーンエイジャーや女性がどうしたら手助けができるのかを尋ねてきた。リタは彼らに詳細を伝えた。こんなによい気分になったのは久しぶりのことだった。

 ある晩、リタがデート相手のロンと自宅でくつろいでいるとき、彼らは誰かが「He’s gonna kill me」と叫んでいるのを聞いた。彼女とロンは外に駆け出て、小さな赤ん坊を腕に抱いた若い女性を見つけた。彼女の顔は腫れあがっていた。

 リタはすぐに彼女を自宅へ招き入れた。デニスと名乗るその脅えた女性は、震えながら、なおかつ困惑もしているようだった。リタは赤ん坊を抱き、怖がる女性をなだめて話を促した。

 しばらくしてデニスは、彼女の夫のハルがここ数カ月でますます粗暴にふるまい、怒りっぽくなってきているのだと説明した。はじめ彼は彼女を言葉でなじっているだけだった。しかし今では事態はずっと悪くなっていた。先週だけでもハルは彼女を3回にわたって殴っていた。今夜彼は、彼女が床に叩きつけられるほど烈しく彼女を打っていた――さらに悪いことに、彼はまだ歩けない息子に危害を加えようと脅すことまでした。

 リタはデニスに同情し、これは恐ろしいことだがよくある問題なのだと彼女に教えた。彼女は自分もまた暴行を受けた経験があるのだと説明した。デニスは、もし自分が家に戻ったら夫が彼女かもしくは赤ちゃんを殺害するのではないかととても恐れていると言った。リタは彼女に、警察を呼んで助けを求めるようにとアドバイスをした。デニスはそれをすることに不安を感じていたが、ほかに選択肢はなかった。

 彼らは地元の警察に通報し、二人の署員がすぐに到着した。聴取のあとで彼らはデニスの家を見に行ったが、夫は見つけられなかった。目で見て分かる怪我はなかったので、警察はデニスに、もしも彼女が彼に対する告訴を固持したいのならば、夫のもとを去らなければならないだろうと助言した。「そうします」、険しい顔で彼女は言った。「彼は私をぶったことでは罰せられないかもしれないけれど、自分自身の赤ん坊を脅かすような男とはいっしょに住めません」。

 警察は二、三の女性避難所をあたってみたが、どれも一杯であった。リタはデニスを自分の家に招き入れ、彼女はありがたく誘いを受けた。しかし翌朝になると、まさに隣の家に隠れている彼女のことをハルが見つけるのではないかとデニスは怯えはじめた。デニスは叔父と叔母に電話をかけて、事情を説明した。幸運なことに、彼らは姪とその赤ん坊にしばらく自分たちのところで暮らすようにと誘ってくれた。まもなくして、彼女の叔母さんがやって来て彼らを拾っていった。

 リタはその後の数カ月のあいだに何度もデニスから連絡を受けた。リタの薦めでデニスはカウンセリングに行き、そこで素晴らしいサポートを得ていた。デニスは当初の考えどおりに告訴し、刑事訴訟手続きが始まる前から法的にハルと別れた。彼には前科がなく、判決は執行猶予付きであった。しかし彼はデニスのそばに近寄ることを法的に制限され、小さな息子との面会はきびしい監視のもとでのみ許された。

 デニスはリタにたびたび電話し、危機と試練の痛みを分かちあった。やがて彼女は、ハルの執行猶予が明けたあと、彼と結婚カウンセラーのもとを訪れることに同意した。彼女は言った、「リタ、あの人にも希望はあると思う。でも私は、彼を暴力に走らせていたものから彼が癒えたと心から確信できないかぎり、戻ることはない。そうでないかぎり、赤ちゃんと私は自分たちだけでなんとかやっていかなくちゃならないだろうと思っている」。

 

 リタは殴打や暴行の被害者への支援を続けている。彼女は教会や団体の会合での人気の話し手で、この仕事に大きな報いを感じている。

 ここまでの道のりで、リタの心のなかの苦痛の恐ろしい結び目は緩んできた。他人に手を差し伸べることは、彼女自身の個人的な苦悩を解消することにも役立っている。彼女は自分の仕事と、自分が助けることのできた人々を心から愛している。

 リタは殴打の暴力をふるう男性についても多くを学んできた。彼らの多くはカウンセリングをとおして実際に助けることもできるということを彼女は知った。正常で暴力のない関係を女性と結ぶところまで行く人もいる。しかしリタはなおも固く信じている、暴行を受けた女性は告訴しなければいけないと、また、彼らは自分を傷つけた男のもとを去るべきだと――彼が自分自身をコントロールして暴力を控えることができるようにならない限りは。

 

***

 

 手を差し伸べることへの動因が自身の苦悩や絶望から来るにせよ、災厄の意味を理解することの必要から来るにせよ、あるいはリタの場合のように深い宗教的な信念から来るものであるにせよ、それは紛れもなく有益なことである。私たちの体と心の傷は、私たちが自分の体験や苦痛を他者と分かち合ったとき、ずっと速く癒えていくものである。

 良い望みと、良い考えと、良い助言と、そして望むらくは良い手本をほかの誰かに分け与えることは、あなたが充実感と報いを感じ、そして苦しみのほうははるかに少なく感じるようになるための助けになる。