PM:生き残ることのその先へ

Theresa Saldana『Beyond Survival』全訳

Beyond Survival - Prologue

 1982年3月、私は幸福で充実した日々を送っていた。私の女優としてのキャリアは上り調子で、私は臨時で大学通いを楽しみ、私のハンサムな夫と私は流行の先端をゆくウエスト・ハリウッドの素敵な集合住宅に住んでいた。フレッドと私はお互いの家族と仲良しで、多くの良き友人に恵まれ、社会的に活発だった。

  しかし1982年の3月15日、愛する我が家からほんの数ヤードの所で私は、陰惨で、計画的な、粗暴きわまる暴力犯罪の被害者になった。

  とある朝の時の経過のなかで私は、健康的で楽天的で元気はつらつとした若手女優から、恐怖に怯えて息も絶え絶えの、苦痛に苛まれる病人の立場に転じて、生そのものに弱々しくしがみついていたのである。

  私の肉体に加えられた暴行はほんの数分間だけ続き、ただその数分は私を死の淵へと連れ出すには十分な長さだった。しかし私の精神に、心に、魂に加えられた暴行はずっと、ずっと長く続くものだった。

  あの陽光に満ちた愛すべき春の日に、私は、過ぎ去った日々の安寧や普通さを欠いたまったく新たな現実のもとへと放り出されたのだった。いま私は暴力的犯罪のほかの被害者たちと、私たちを残りの世界から分け隔てるきずなを共有するようになった――ひとりの人間がほかの人間に対して負わせ得る苦痛やトラウマの深さについての、個人的で強烈な知識である。突如として私は、平和や安全、信頼といったものがもはや存在しないようにみえる世界のなかに再び産み落とされたのだった。突如として私は被害者になった――洪水や事故や疫病ではなく、別の人間がもたらした禍いの。その考えは私の気分を滅入らせた。

  私がチューブや機器やモニターにつながれ、目がくらむほどの苦痛に苛まれながら生きるために必死に戦っていたとき、私は自分が浮氷の上にたった一人取り残された生存者のように、切り離され、隔絶され、奔流が私をひとびとの暮らす社会からさらに遠くへ、遠くへと運び去るのを感じていた。

  数日が、数週が経つにつれ、私は私自身の体験によってますます孤独感を深めていった。ある一人の人間によって傷つけられる――殺されかけるという比類のない恐怖を、ほかの人たちが把握したり、完全に理解するのはおそろしく困難なことのように思われた。

  そこで私は書くことにした、ほかの人たちにそれがどんなものであるかを知ってもらうために。当事者の視点から、被害者がどのように感じるものなのかを説明するために。体と心の苦痛の深淵から帰還した私の旅を語り伝えるために。

  私の本の目的は、他人に私の味わった苦悶を私に成り代わって体験させることにあるのではなく、おぞましい、身をよじるような、苦痛に満ちた体験のなかから、なにかしら前向きなものを産み出すことがいかに大切であるかを示すことにある。

  私はまだ入院中の頃に執筆をはじめていたが、この本のコンセプトが変化したのは、私が完全な回復への道のりをさらに歩んでいき、「被害者のための被害者Victims for Victims」の団体をたちあげ、ほかの犯罪被害者たちと忙しく活動するようになってからである。そう、私はまったき絶望の淵からの生還を果たした私自身の非常に個人的な物語を語りたいと思っていた。しかし私は、私を惹きつけ、高め、刺激してくれた、ほかの多くの被害者たちの悲劇と勝利の体験を分かち合いたいとも思うようになっていったのである。

  この本で取り上げた被害者たちとかれらの愛するひとびとは、実在する。かれらの強さ、耐久力、決断力も。ただし名前や住所などの、個人の特定につながるような仔細は変更している。

  私は精神科医でも心理学者でもないが、犯罪被害者にとってはあまりに馴染み深い苦痛と孤独の世界についての、じかにこの手で得た深い知識を持っていることはたしかである。 

 自身が犯罪被害者である読者に対しては、私はこの本が、あなたはひとりではないのだということを――たくさんの、たくさんのひとびとが、あなた自身が経験したような途轍もない試練をくぐり抜け、さまざまなやり方で恐怖や窮状を乗り越え、くじけることなく毎日を前向きに生きているのだということをあなたが知り、あなたを元気づけることに役だつものであることを願っている。

  しかし私は、被害に遭った人とそうでない人とのあいだの溝をつなぐ橋渡しもしたいと思っている。本当のところ、私たちはみな、多くのものを共有している。あまりにも多くの犯罪が毎日発生しているなかで、ドアに鍵をかけたり、子供たちの無事を気遣ったり、夜間に外出する際は注意したりといったような、身の安全のためのもろもろの用心をすることなしに生きている人はほとんどいない。多くの人々は(幸いにも)現実の犯罪被害者ではないけれども、かれらは実のところ、犯罪に対する恐怖の被害者なのである。そしてその点でかれらは、じかに襲われた経験のある人たちと多くを共有している。

  この本に収められたさまざまな体験が、最悪の時だけでなくもっとも輝かしい時のなかでの人間のありようをも照らし出すものであることを望む。

 

テレサ・サルダナ